とっても小さなその手に、癒された話。

私が都会で一人暮らしをして、働いてた当時の話です。

毎日毎日、同じ職場に通い何も面白い事のない、つまらない日々でした。

やりがいもなければ、ただただなんとかやり過ごすような日々を送って

いた私の唯一の癒しが、残業帰りの暗闇の駅までの道にいつもいる、

野良猫でした。

その駅は、音楽系の大学の近くだったので、夕方になるとあちらこちら

から、歌声や楽器の音が聞こえて来ていました。

その猫に会うまでは、その音色や歌声が聞こえた日には、癒されていま

した。

しかし、仕事が遅くなると全くそういう癒し系の音を聞く事はできませ

んでした。

そしてある日の、駅までの帰り道。

すでに暗闇が迫ってきて、薄気味が悪くなってきている、街灯のあまり

ない住宅街に、突然白い影が現れて、私は心臓が跳ね上がりました。

しかし、よく見ると可愛らしい白猫でした。

初めは私を警戒していたので、私が遠く離れた場所にしゃがみこみ、

猫自身が寄って来るまで手を差し伸べて、根気よく待ちました。

すると、もともと人懐っこい猫だったのか、ゆっくりと近寄ってきます。

私自身、結構な確率で猫には好かれるので、時間をかければ触れるとい

う根拠のない確信がありました。

しかし、その日は私の手の臭いをかいだだけで、それ以上は触らせてくれ

ませんでした。

けれどその猫の存在は、退屈な毎日に彩りを与えてくれました。

残業で遅くなっても、もしかしたらその猫に会えると思うと、なんだか元気

が出るのです。

もちろん猫好きの私は、会った翌日から、いつも持ち歩く鞄には「にぼし」

を入れて歩きました。

いつ会ってもいいように、かばんに入れっぱなしにして、毎日仕事に行き

ました。

久しぶりに会えたその日に、「にぼし」を出しました。

というのも、実際白猫はお腹が大きいように見えたからです。

もしかしたら妊娠している可能性も考えて、食べ物を用意しました。

案の定、バクバク食べました。

その猫と会える日は、3日に1日くらいの頻度でしたが、それでも私に

とっては、嬉しい癒しの時間でした。

しかし仕事で色々あり、結局仕事を辞める事となりました。

なんとなく頭で、白猫と会えるのもこれが最期だなぁと思っていた矢先

に白猫と会う事ができました。

かなり私にも懐いて来て、私の姿を見ると寄ってきてくれるようになって

いました。

いつものように、「にぼし」をあげて食べ終わるまで眺めていました。

そして、心の中で「バイバイだね。もう餌あげられないけど、頑張って

生きてね。」と声を掛け、立ち上がりました。

振り向かずに去ろうとした、その瞬間!!

私の手をやわらかい何かがつかみました。

それが猫の前両足だと、気づくのに相当の時間を要しました。

なんと驚いた事に、白猫は立ち上がり私の片手を、パカッと大きく広げ

た肉球で挟み込んで、手を握ってくれたのです。

まるで「行かないで、もう少しここに居て。」と言わんばかりに、白猫

は私の手を掴んでくれました。
白猫.jpg
↑こんな感じ。

まだ食べたいのかと思い、ニボシが残っていたので、数本差し出しますが

全く見向きもせずに、なすりついてきます。

まるで私の心の声が聞こえたかのように、別れを惜しむかのように人の顔

を除き込んできます。

「ごめんね。もう会えないかもしれないけど、頑張って子供を育てるんだ

よ。」と声をかけると「やっぱりね。うん。わかったよ。またね。」と、

言わんばかりに、ゆっくりと振り返りながら、建物裏に去って行きました。

猫に手を握られるなんて、初めての経験だったので、とても印象に残りま

した。本当に小さな肉球で、必死にしがみつかれるあの感覚は、普通の人

では一生涯味わう事ができないのでは?と思うくらい、スペシャルな感じ

で、幸せでした。

そして、その姿は都会で一人、本当は誰かにしがみつきたいのに、頑張って

いる自分の姿に良く似ていて、白猫を励ました言葉に自分自身を重ねて、

「よし!がんばろう!」

と思わせてくれました。



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